研究評価についての海外アンケート結果

筑波地本研究の民主化委員会


 研究の民主化委員会では、研究評価についてのワーキンググループをつくり、評価に関する情報収集を行ってきたが、1997年に、海外の大学や研究機関に電子メールで、研究評価についてのアンケート調査を実施した。ここに、調査結果を報告する。

1. 調査方法

各分会に、関連研究機関の研究者の電子メールアドレスを提出してもらい、次の様なアンケートをメールで送付した。送付メール数は約150で返事があったのは、37通であった。回収国は、フィンランド、米国、フランス、英国、スウェーデン、オーストリア、スイス、オランダ、ドイツ、カナダ、ブラジル、イスラエル、アイルランド、オーストラリア、インド、イタリア、ニュージーランド、デンマーク、ラトビアの19カ国37機関からであったが、その内会社を除く、35大学・研究機関についての回答についてまとめた。昨年、米国については、一部調査を行って、地本通信等で公表したので、今回は、その他の国に重点をおき、カナダやヨーロッパ等へのアンケートを多くとるように心がけた。また、参考資料として、科学技術庁が、旭リサーチに委託して行った、評価についての資料も掲載した。尚、検討はずれの回答や翻訳のミス等もあると思われるが、ご了承を願いたい。

2. 調査結果

 全体の傾向としては、カナダやオーストラリアでは比較的評価を積極的に行っており、反対に、ドイツ、スウェーデン、オーストリア等のヨーロッパ大陸ではあまり行われていないという結果であった。また、評価結果を何等かのかたちで処遇に結び付けているのは、調査大学・研究機関の内10機関(調査機関の29%)であり、比較的少なかった。

Q1;機関の評価について

 21機関(60%)で、定期的に機関評価を行っていた。評価の間隔は1年から10年までと幅が広かった。オーストラリア国立大では、5年ごとの外部評価が行われているが、それは2カ月の資料準備と2週間の面接からなる大がかりなものである。評価の指標としては、論文数、特許数、それらの質、獲得プロジェクト数、基金獲得数、学会主席状況、表彰歴、論文引用数等があり、大学だとこれに、大学院学生博士取得者数が1指標として加わる。世界的な課題を扱っていいるか、や、科学技術への成果の影響、投入経費に対する開発技術の量なども公的研究機関では評価の基準になっていた。フランスのモントペリエ大では評価者は選挙と推薦で決定される。また、いくつかの国では、評価結果はしかるべき雑誌等に公表されていた。

Q2;プロジェクトの評価について

 23機関(66%)で、半年から5年の間隔で、定期的に評価が行われていた。評価基準としては、論文数、研究の進展度、外部資金獲得状況、提案課題数、製品化や問題解決の程度、特許数、提案手法の質、失敗の危険度等である。評価者はプロジェクト資金提供者による場合が多い。形式としては、ピアレビューや委員会による審査等がある。

Q3;研究者の評価について

 25機関(71%)の機関で研究者の評価が行われていた。指標としては、論文数、プロジェクト数、招待講演数、編集委員数、リーダーシップ性、新規性、成果と研究予定、生産性、独創性、特許数等である。大学では、これに指導学生数、受持ち授業数も評価の指標となる。評価者は、上司、教授やピアレビューなどの形態がある。西イングランド大では学生による教育従事者の評価が行われている。面接を重視している場合もあり、カナダ森林局科学部のように、評価結果を被評価者へ何回もフィードバックさせるシステムもあった。評価間隔は半年から5年おきであった。カナダのサスカチュワン大では、100ページにも及ぶ労使間の団体協定が、研究員の評価に関してあるらしく、労働組合が日本のように機能していることが予想された。

Q4;評価のボーナスへの反映

 10機関(29%)でのみ、評価結果を特別手当に反映していた。大学の場合理事会の意見を聞いて、学長が裁定する場合が普通であった。また、スウェーデンのウプサラ大では、組合との協議で、評価による特別ボーナスの違いは極めて少なかった。

Q5;評価についての異議申し立て制度

 11機関(31%)で、評価に対して不服申し立てができると回答があった。学長、学部長や上司または、代3者機関や委員会などがその対象であった。
     
質問1
機関評価
質問2
プロジェクト評価
質問3
研究員評価
質問4
ボーナスへの反映
質問5
異議申し立て制度
フィンランド
ヘルシンキ大○(毎年)
論文数
博士取得者数
獲得プロジェクト数
○(毎年)
論文数
研究の進展度

論文数
プロジェクト数
招待講演数
編集委員数
×
3−5年に1度
機械的に支給

学長に抗議可
オウル大
ポイント制
(研究80%)
審査付き国際誌 3点/論文
審査付き国内誌 1点/論文
その他論文 1点/論文
特許 1点
(教育20%)
修士学生 1点/人
学位取得者 5点/人
Ph D 取得者 10点/人

論文数(2−5年おきに)

論文数(2−5年おきに)
大学院生数
××
米国
タフツ大○(毎年)
成果
基金獲得数
教育

ピアレビュー
論文数
外部資金獲得状況
提案課題数
○(毎年)
教授によるポスドク研究員の評価

理事会の意見により学長が翌年の昇給を判断

明かでない
トマスジェファーソン大○(3年おき)
ガンセンターはNIH委員会により見直しをうける
○(3年おき)
NIH委員会により

教授は学長により口頭で
ポスドク研究員と技術職は教授により文書で評価

俸給の0−4%の昇給に反映

異議申し立てはできるが、ほとんど査定は変化なし
サンジエゴ大学
論文数
研究プログラム
成功

郵送資料
委員会

ピアレビュー委員会による論文数、講演数、学生数、受持ち講義数

ピアレビューメリットシステム
過去3年間について

独立した委員会に対して
フランス
モントペリエ大○(2年おき)
CNRS評価システム
選挙と推薦による20名が2−4年おきに傘下の研究所と研究者を評価
○(2年おき)
昇格に影響
××
英国
ウエールズ大
資金提供者による外部評価
製品・問題解決度(企業より)
申請段階での評価(研究評議会)
補助金(提供者)
内部評価はなし

論文数
獲得ファンド数
契約後継者数
教育・研究・管理への貢献度
博士取得者数
××
phD候補者の異議申し立てはある
オックスフォード大
独立した科学者委員会が発表記録により5段階評価をし、公表

プロジェクト計画を匿名のピアレビュー審査員付きの雑誌に公表

発表記録
××
西イングランド大○(2年おき)
"Appraisal"制度
上司と面接2時間
研究
教育(学生による評価)
管理業務
{職員の自己点検と活性化のため}

上級職員にのみ俸給の数%のプレミア制度あり
業績が悪いとつかない
×
スウェーデン
農科大学×××××
ウプサラ大
植物生理研究所

出版物
Ph D試験
外部ファンドの導入状況(過去5年)
×
研究評議会による外部導入ファンドの査定

プロジェクトとの関連で

組合との協議評価による特別ボーナスの違いは極めて僅少
×
オーストリア
ウイーン工科大×
物理、生化学の分野で全国的に行われているのみ
×
新しい学則に教授の評価がもられたが、機能していない
××
スイス
連邦材料研究所×
簡単な内部評価
×××
オランダ
KUN王立大
生物学科
○(5年おき)
国の委員会による
次の研究と人事に影響

一部、ピアレビューでの事前審査
×××
ドイツ
キール大×××××
薬学生物学研究所×
匿名の事前審査
公表される
×××
カナダ
食品研究開発センター○(10年おき)
外部評価(科学者、官、企業)
世界的な課題
成果
科学技術への影響

課題審査時にリーダーがピアレビュー
長期研究も5年まで
研究成果
技術移転
研究協力
○(毎年)
年度末に
論文
リーダーシップ
新規性(仕事の)
昇格審査あり
×
特許収入は認められる

第3者機関への異議申し立て
トロント大○(毎年)
Progress Through the Ranks (PTR)
成果レビューを提出
教育、学生数、新しい課程
論文
管理業務
学会出席状況

教育 5点
研究 5点
管理業務 2点
昇給は相対達成点数による

学長がPTRの点数に基づいて

学部長に異議申し立て
ゲルフ大
資金提供者による外部評価
○(毎年)
活動報告
教育
研究
大学や学会の業務
内部評価(ピア、学部長、学長からなる委員会)
功績点(0, 1, 2)を決定、総長へ答申

功績点(0ー2)により
0;無昇給
1;1号昇給
2;2号昇給
低いランクほど昇給幅は大きい

異議申し立て制度あり
学部、学長、総長レベルで再評価される
手紙と面接による
サスカチュワン大
Collective Agreement(団体協定,100頁)で労使間の取り決め
ブリティッシュコロンビア大
5年ごとに外部のピア科学者からなる委員会が3ー4日かけ、学部、職員、施設について、視察と会見で

定期的に

特に昇格申請について年俸に影響

再評価も有り得る
穀物研究センター
科学者について5段階評価
論文の量と質、授業歴
リーダーシップ、表彰歴
外部資金の導入実績
農業での実用化、ポイントシステム
1番上の段階は科学者全体の10%を越えない

5年ごとに評価委員会には外部と内部の両方が入る

毎年成果と研究予定を各自が記述
×
特許収入ははいる
農業食料カナダ研究部
貢献度、目的達成度
論文数、執筆章数
総説数、特許や産業化数
独創性、表彰、授賞、文献引用数
共同研究、研究プロのリーダー
専門雑誌の編集委員

5段階の俸給表
普通はレベル3で退職
レベル5は全研究者の5%
×
特許収入ははいる

科長が科学者と定期的に会見
天然資源カナダ森林局科学部
フィードバックの評価制度
毎年、生産性、独創性、リーダーシップ性を5段階評価

特許、著作、権利点に対して
ブラジル
サンパウロ大
各学部を、ブラジル人2名と外国人専門家1名からなる第3者委員会が評価
学生の試験を行い学部の評価を試験的に行っている
○(毎年)
科学者委員会による
○(2年おき)
教授の内部評価
同時にブラジル人2名外国人専門家1名からなる委員会による外部評価

公式にはない
セラード農牧研究公社牛肉研究センター
投入経費と公表開発技術・情報との効率性

半年ごと4段階
研究の達成度を研究条件の良否度で割、1以上が良い研究者

同左
昇格・昇級に反映

成績の良い研究所の良いプロジェクトチームでは1.5カ月分
通常の成績の場合0.5カ月分
イスラエル
ベングリオン大×
資金提供者による外部評価

若年研究者のみ論文数、教育、グラント獲得数、で評価
講師以上は上司からの推薦状のみで昇格・昇給
××
アイルランド
UCC大
1997年に初めて政府が独立コンサルタント会社に委託して評価を行った
論文引用数

ピアレビュー

(若手職員)
教育手腕
大学への貢献
研究成果
(助教授以上)
論文歴
獲得ファンド
××
オーストラリア
豪国立大○(5年おき)
外部評価
面接2週間
その準備が2カ月
結果は大学評議会に提出され公表見直しを行う

外部評価
研究成果公表
 本;執筆 8点
   編集 2点
論文;(審査あり)2点
   (無審査)0.5
   (ノート)0.25
総説; 0.5
学会報告;(審査あり)1
     (無審査)0.5
     (ポスター)0.05
技術レポート 0.25
1点=$ 350.-
博士取得学生あり +$ 3,000.-
競争的資金グラント獲得額の5%
2年おきに学部長と面接
○(毎年)
業績報告、2つの委員会で審査

俸給の15%に研究成果が反映する
昇給、昇格に影響

審査過程についてのみ異議申し立てでき、細部については不可
CSIRO某研究所
毎年、上局の担当者による、口頭と文書で説明会見

外部の研究者による
所長によるレビューも毎年ある(部長が研究進展状況を所長に報告)

終身雇用(Tenure)になる時の評価(5年勤務した後所長、副所長、部長と一部研究員の前で60分、業績と今後の研究について説明)毎年の研究者評価(昇格に反映、2号俸アップ制度あり)
×
委員会に
インド
1000人規模ICRISAT(国際半乾燥熱帯作物研究所)××
年度当初に研究課題を提出し、絶対評価
平均点は6点
評価者は直属の上司とその一段階上の上司
××
イタリア
ポプラ研究所×
コスト、目的
提案者の知識
提案手法の質、プログラムの明確さ
失敗の危険度
管理とその基準の定義
複数の領域の共同
外部資金の可能性

上司による明確な基準は無い
××
ニュージーランド
コルター・ホルト
ハーベイ研究所
××
6カ月ごとに3段階評価
KPI(Key Performance Indicators)
上司による評点、ピアレビュー(ボスと他2人による)
給与のアップに反映する
×
デンマーク
バイレウス大学×
論文数
特許数

論文数
獲得基金数
特許数
ポスト
学生数
××
ラトビア
国立植物園
国際誌への論文数
国際学会への参加状況
××
 凡例; ○:評価を実施したり、処遇への反映や異議申し立て制度がある。
 ×:評価制度がなく、処遇への反映や異議申し立て制度はない。
 △:部分的または条件付きでの実施。
 ?:不明

3. まとめ

 今回の調査は、やや大学機関に偏り、数も限られ、また、質問の解釈にも回答者に微妙な違いがあったと思われるが、全体としては、興味深い研究評価の世界的傾向をある程度知ることができた。1つは、欧米においても、厳正な研究評価を行いだしたのは、極最近のことであるということだ。2つめは、回答の文面から、公平で有効な評価は可能なのかと悩んでいることが伺えるものがあり、やはり評価することの難しさは忘れてはならない。3つめは、2カ月の準備と2週間の面接の例に見られるように、きちんとした評価にはかなりのエネルギーが必要である。4点目は、予想外に、評価を処遇に結び付けているところが少なかったことだ。
 我々は評価問題の考え方について既に筑波地本通信No. 51(1997年3月17日)に公表したが、今後も、研究評価が、我々の望む民主的な研究の妨げにならないように、監視していく必要があると考える。今回の海外アンケート調査結果が、そのための一つの参考資料となれば幸いである。