特別昇給制度・勤勉手当制度の見直し・改悪

任期制導入を許さないために


はじめに

人事院は、10月24日に労働組合に対して「より能力・実績の給与への反映の推進の観点」から、特別昇給(以下、特昇)制度・勤勉手当制度について早急に見直し検討を開始したい旨を表明しました。また、今年の報告では、研究公務員に任期制導入を明らかにしていました。これらの提案は、職員間の新たな差別・分断を狙うものであるとともに、公務員制度の根幹や組合の団結上、運動上にも影響を与える重大な問題です。以下、人事院提案の内容や、この問題に対する労働組合の考え方、人事院の狙いと問題点等について解説します。この資料が、人事院の見直し・改悪を断固阻止するための職場での意思統一、運動の推進のために活用されることを期待します。

1 人事院の提案の内容

以下、人事院の説明と報告に則しつつ、特昇制度・勤勉手当制度や任期制の改悪内容について推測してみます。

(1)特昇制度と勤勉手当制度の提案について

人事院の10月24日の特昇・勤勉手当制度についての説明は、巻末の資料に掲載しています。その内容を推測すれば、次のようなことが考えられます。

〈特昇制度〉

(人事院の問題意識)現行の特昇の効果は、基本的には画一的であり、職員の勤務成績・実績に応じたきめ細かな対応が必ずしも十分にはかれるもとはなっていない。従来の制度を踏まえながらも、実績を上げた人に今よもー層実績に応じて報いることのできる途を開き、今よりもよりきめ細か対応を可能とする制度を検討する必要がある。また、研究活動の活性化の点から、人事院では各方面で様々な施策を検討中であり、特昇についてもそうした観点からのより有効な活用方法の検討が必要だ。

1)人事院は「現行の特昇の効果は、基本的には画一的」としており、行の特昇制度の幅と期間の面で弾力化を考えていることが推測されます。
2)幅の点では、「実績を上げた人に今よりも一層実績に応じて報いることのできる途を開く」としています。このことは、特昇の効果について、現行制度は1号昇給が原則となっていますが、それをさらに大きくすること(例えば、2号昇給の効果に)が考えられます。もし、2号特昇への改悪が行われれば、現在でも恣意的な評価によって、押しつけられている格差(1号の格差が退職まで続くとすれば約450万円の格差となる、さらに退職金や年金にも影響)が倍に拡大することになります。
3)また、人事院は「今よりもよりきめ細かな対応を可能とする制度を検討する」としています。その内容としては、効果を特定の期間に限定することが考えられます(仮に、5年の効果と限定した場合、6年目には1号分さがることになる)。そのことは、一面で、特昇効果を減額させて、格差を縮小させることになります。しかし他方で、それだけ差別的運用がしやすくなる側面もありますし、また、今までの1号分で8回も回数を増やすことができ(特昇を5年間の効果とし、40年勤続と仮定)、特昇の機会が増えた分だけ、特定の人に集中させることも可能になります。
4)さらに人事院は、「研究活動の活性化の観点」から、特昇についても「より有効な活用方法の検討が必要」としており、研究職について、一般公務員の制度と別枠で、例えば「研修・表彰による特昇」(39条)や「殉職等特別な場合」(42条)等を活用した新たな特昇制度を導入する可能性もあります。特に、42条は、過去に勤務評定特昇枠から3%を42条に移し公務特別貢献枠を作った経緯や、本省庁の特別枠として利用されていることから注意が必要です。

<勤勉手当制度と運用>

(人事院の問題意識)現行の勤勉手当は、個々の職員の勤務成績に応じて支給されるべきもので、その成績率の運用についてもすでに基準が示されて いるが、支給実態は必ずしも制度及び運用の基準に沿ったものとなっていない状が見受けられる。したがって、民間企業の状況等を考慮しつつ、適正な給与分の観点から、勤務成績が優秀なものに対する勤勉手当の成 績率のあり方について制度及び運用の両面から検討を進める必要がある。
研究職の勤勉手当については、国の重点施策である研究活動の活性化の観点から、競争環境下のインセンティブの付与が必要。同時に、成績に応じた適な処遇を最優先で行う必要がある。

1)人事院は、「勤務成績が優秀なものに対する勤勉手当の成績率のあり方について制度及び運用の両面から検討を進める必要がある」としています。現行制度は、成績率について、「100分の40以上100分の90以内」とされていますが、この幅をさらに拡大すること(例えば、「100分の30以上100分の120以内」など)が考えられます。その差は0.9月(俸給と調整手当が30万円とすれば27万円。勤勉手当は6月、12月と年2回ですから年間では最大54万円の格差)になります。
2)また、特昇と違って勤勉手当では「運用」についても検討を進めるとしていることに注意が必要です。人事院、82年に「勤勉手当の成績率の運用について」という通知で、@成績率の段階は、少なくとも全体で3段階以上となるよう設定すること。A成績率の最上位と最下位の幅は100分の15以上とすることが望ましいが、その差が100分の10に達していないものについては少なくともこれを上回らせるようにすること。B成績率の段階別適用人員については、上位の段階に決定される者の割合を原則として全体の2-3割程度とすること、を指導しています。この通知をより一層、厳しくし差別運用を強化すること(例えば、段階を5段階以上、格差を100分の50以上、上位割合を1-2割程度とするなど)が考えられます。民間での加点主義評価制度(減点による評価ではなく、目標管理による達成度を絶対的に評価する制度)の動きを反映し、多数は平均的支給としつつ、特定の業績をあげた少数者のみを厚く優遇する、より選別的な制度の検討も考えられます。
3)さらに、人事院は「研究職の勤勉手当については、国の重点施策である研究活動の活性化の観点から、競争環境下のインセンティブの付与が必要。同時に、成績に応じた適正な処遇を最優先で行う必要がある」としており、研究職については、「最優先」で勤勉手当制度による格差が持ち込まれる危険性があります。

<スケジュール>

(人事院の説明)今後、各省庁との意見交換、職員団体の意見聴取等を行い つつ、できるだけ早急に具体的な改善案をまとめ、そして、来年度から実 施に移していきたい。

年内ないし来年早々にも一定の人事院の考えを示してくることが予想されます。当面、人事院に見直し・改悪をやめさせる取り組みが重要になっており、さらには、「来年度から実施」ということで具体的提案が出されてくれば、3月が最大の山場となります。

(2)研究公務員への任期付任用の導入について

任期付任用制度についての人事院報告は巻末の資料につけています。そのイメージを推測すれば、次のようなことが考えられます。

(人事院報告の内容)「研究活動の活性化を図るためには、適切な実績評価に基づく処遇、研究における自由度の拡大、人材の流動化などを進める必要がある」とし、人事院として、研究公務員について、新たな雇用の仕組みとして「招聘型」と「若手育成型」の任期制を導入することが必要としとし、そして、「このような認識の下、更に検討を進め、早期に成案を得て、別途、立法措置について意見の申出を行う」と表明しています。また、大学教官についても「大学審議会の検討結果等を踏まえて適切に対処する」としています。


1)任用形態としては、「招聘型」は「当該研究分野において実績等が評価されている優秀な研究者を任用する場合」とされ、プロジェクト研究に限らず、外国人を含む優秀な研究リーダーを招聘する場合が想定されています。また、「若手育成型」は「将来においてその経験が評価されることが期待される研究業務に若手研究者を任用する場合」とし、ポスドクや博士課程修了者などで、研究所で任期期間に成果をあげて一人前の研究者として巣立つことを目的として採用する場合が想定されています。このニつの場合に、一定の任期(例えば3年から10年程度か)を定めた任用を行うとし、任期の更新やパーマネント(終身雇用の職員)としての採用は前提としない、としています。その結果、任期付で採用された研究者は、任期終了までに一定の実績をあげなければならず、短期的な研究成果をあげることに追いまくられることになります。


 研究所によっては、新規採用者全員を任期付で考えているところもあるといわれていますが、仮に、当面は限られた分野への導入にとどまったとしても、科技庁は研究予算による誘導を表明しており、任期付任用者の拡大やパーマネントの研究者への退職圧力も想定されます。


2)給与は、「一定の任期においてそれぞれの研究者に期待される研究成果、研究活動等に応じた給与を支給することを基本として、それぞれのタイプの任期制にふさわしい給与水準となるよう、具体的な検討を行う」としており、現行研究職俸給表よりも高い水準での別俸給表の適用が考えられます。同じ研究グループで、片や任期付、片やパーマネントで、かなりの給与格差も考えられます。
3)勤務形態では、「裁量労働制を含めた自由度の高い新たな勤務形態の検討を行う。また、任期終了後の再就職の必要性等に配慮して、営利企業への就職制限の取扱いについても、その弾力化を検討する」としており、コアタイムを設けるかどうかも検討中と回答していますが、かなり弾力的な形態が考えられます。例えば、1週間の内、1-2日のコアタイムがあるだけで、後はまったくの裁量労働となる場合も考えられます。どれだけ働いても、あるいは働かなくても週40時間勤務したものとみなされ、成果が厳しく問われることによって、長時間労働が蔓延する危険性があります。
4)導入のスケジュールでは、来年の通常国会への法案提出を狙い、年内にも意見の申し出を行うことが予想されます。なお、大学教官については、「現在、大学審議会等において、任期制の導入についての検討が進められており、その検討結果等を踏まえて、適切に対処することとしたい」と報告しています。10月29日に大学審から選択的任期制の導入が答申されましたが、今後、「教育公務員特例法」改正に向けた文部省等の検討を受けながら別途の作業が進められると考えられます。


以上、人事院の提案の具体的内容を推測してみました。

2 私たちの考え方と要求

3章以下で具体的に分析しますが、今回の特昇・勤勉手当制度の見直し提案や任期制導入の報告の狙いをまとめれば、次のとおりです。

第1に、今回の提案は、特昇・勤勉手当制度の見直しとして提起されていますが、「成績主義」の名による競争的主義的人事管理政策の一環であり、日経連の「新時代の日本的経営」の狙いと同様に、個別的な賃金管理を強めるとともに、雇用の流動化を図り、差別と分断政策によって労働者間の競争をあおり、総人件費抑制、職場支配強化を狙う人事管理政策の一つとして極めて危険なものです。
第2に、特昇・勤勉手当制度は、管理職による恣意的な評価制度である勤務評定制度を基礎としており、今回の見直しはその恣意的運用の幅を広げようとするものです。勤務評定は昇任・昇格や定期昇給の基礎ともなっており、今回の見直し改悪を許せば、昇格における差別的運用もさらに個人ごとに拡大されかねませんし、普通昇給にも差別が持ち込まれる危険性があります。今後の人事行政全般の改悪の突破口となるとともに、公務部門の人事行政全体に影響を与えるものです。
第3に、特昇・勤勉手当制度の改悪と差別運用の強化は、職員の意識をばらばらにし、労働組合の団結を阻害し、組織の力を弱めることになります。実際、国公の組合でも、労働組合の分裂、破壊の道具として使われました。その結果、要求実現の取り組みが弱まり、結局、労働条件の悪化をもたらします。さらには、個々人の評定を行う管理者の顔色を伺うような意識が広がり、自由にものをいう雰囲気さえなくなり、ひいては行政のゆがみにもつながりかねません。
第4に、任期制の導入は、労働基本権が制約されているもとで、国家公務員に保障されている身分保障の権利を実質的に空文化させるものです。「新時代の日本的経営」にいう「高度専門能力活用型」の雇用形態を公務にも導入しようとするものとして公務員制度の根幹にかかわり、研究職の問題にとどまるものではありません。また、日経連等は、労働法制の改悪で、1年以上の期限付き雇用を認めるよう政府に圧力をかけていますが、この任期付任用はその先取りともいうべきもので、公務職場に不安定雇用を増大させるだけでなく広く民間の雇用形態にも影響を与えかねません。
労働組合は、本来、差別分断の制度である特昇制度・勤勉手当制度は廃止し、本俸や期末手当に組み入れるべきであり、研究活動の活性化は研究者自身が求める人員と基礎的研究費、旅費等の充実で図るべきと考えています。また、民主的で、公正かつ効率的な行政の確立をめざし、現在ある特権官僚や本省・地方の差別、男女差別などさまざまな差別的運用の改善や天下りの規制、さらには評価制度について、客観的で、納得性のあるものを別途検討すること等を要求しています。
労働組合は、特昇・勤勉手当制度の見直し・改悪と任期制導入に反対し、改悪を阻止するために断固としてたたかう決意です。

3 提案の背景と問題点

 人事院が今回特昇、勤勉の見直しや、任期付き任用を強く打ち出してきた背景には、民間におけるリストラの強行や従来の「日本的経営」の見直し再編の進行、成績・業績反映、総人件費抑制型の賃金・人事制度のつよまりがあり、行革攻撃や官僚批判が強まる中で、人事院が財界の主張に迎合姿勢を一段と強めていることがあります。


 すでに人事院は、95、96年勧告で「給与配分の適正化」の名目で調整額や寒冷地手当、筑波手当の改悪を強行しています。また、96人勧の報告文でも、「民間企業では、既に述べたように、厳しい経営環境の下、社会、経済の変化に対応した経営システムや人事制度改革への取組が進んでおり、人事管理面においては、役職のスリム化、専門職化や勤務地限定制などの複線化、年俸制の導入等の動きも注目される」とのべた上で、「人事行政を取り巻くこれらの諸情勢を踏まえ、本院としては、公務員倫理の一層の徹底に努めるとともに、現行の人事管理について全般的な見直しを行い、制度、運用の両面にわたり、改革に取り組む必要があると考える」とし、「長年続いてきた人事慣行の見直し、高齢化や就業意識の変化に対応し得る多様で柔軟な勤務形態や昇進システムの設定、能力や実績をより重視した給与システムの構築を目指していく必要がある」と述べています。人事院の今回の提案は、このような問題意識の延長線上に、人事管理全般の見直しの第1歩として打ち出してきたものと受け止める必要があります。

このような背景にもとづいてだされてきた今回の提案には、大きくいって次のような間題点が指摘できます。

1に、賃金全体をあげることよりも、業績・実績による賃金決定の幅を大きくすることで、賃金決定における当局の裁量の幅を大きくして、人事考課(勤評)によって労働者を互いにきそわせばらばらに管理する方向をめざしていることです。それは、当局や査定権者の権限を強めて職場管理を強め、労働者が組合へ結集して賃上げをたたかう意味合いを形骸化させ、団結にも労働者の権利にも重大な影響を及ぼすものです。

(解説)民間では春闘形骸化が進む一方で、三井金属や鉄鋼労運、ベネッセコーポレーションなどのように、ベアそのものを廃止しようとする動きが最近とくにめだつようになっています。民間大企業で業績給の一つとして、特に重視されているのが一時金で、賃金総額にしめるそのウエイトも増大しつつあります。また年俸制(それ自体、業績給の一種ですが)導入にあたっても、一時金だけは別に支給されるケースが多く、社会経済生産性本部の楠田丘氏などは、年間5カ月分の一時金があれば、その3カ月を固定部分とし、残り2カ月を「変動業績賞与」とするよう提言するしまつです。当然その配分は、人事考課による査定によって決まり、減少もありえます。
 人事院の提案は、結局はそうした方向をめざしているというしかありません。なお、特昇は基本賃金の俸給額を上積みする形をとり、その効果が大きい点で(一時金や退職金にも反映、さらにその効果が生涯に及ぶ)公務独特の制度といえますが、業績・成果の賃金への反映というその本質は民間と変わりません。今後手当化=定額化などの手直しも十分考えられることではあります。


2に、それとも関連しますが、これを契機として定昇制度や賃金体系の抜本的な見直しがねらわれ、賃金決定要素から能力や業績、職責とかかわりのない年功的要素や生計費要素をできるだけ排除しようとする動きが一段とつよまるとみなければならないことです。そしてこれに成功すれば、年齢の高まりに応じた賃金原資の上昇要因をのぞくことが可能になり、労働者には年功意識を希薄化させることをねらうものです。これは、賃金決定における生計費原則の否定につながります。

(解説)民間の事例)民間では、職能資格制度や能力給の普及によって、賃金が個別に決められるため、すでに相当程度定期昇給制度の形骸化が進んでいます。最近ではさらにそれを徹底しようと、「年俸制」や「裁量労働制」の導入を進めています。年俸制とは職種ごとに「働き」(成果)に応じて年間賃金を決定するもので、いわば「働き」についての人事考課だけで賃金を決めるというもの。裁量労働とは、最近ホワイトカラーの生産性向上と「合理化」の有効な手段として財界が注目し、適用拡大を求めているものですが、労使協定で決めた労働時間を「みなし労働時間制」とするもので、何時間働いても決められた労働時間と見なされる制度です。これも査定次第で、賃金、一時金に大きな格差を付けることが可能となります。
 年功賃金の形骸化については説明するまでもありません。日経連は定期昇給の用語すらやめ、単なる「昇給」「昇給制度」とするよう主張しています。また、職能給を一段と厳格化することにより、一定資格以上は定期昇給をストップしたり、「洗い替え」方式で前年の査定結果を踏襲せず、毎年職能給の格付けを変えたり、降格もごく当たり前にすることを提言しています。


このような人事管理のもとにおかれた労働者にとっては、賃金は毎年上がるものという観念すら完全に吹き飛んでしまうことは明らかでしょう。もちろん、人事院が一挙にこのようなものをねらっているとはいいきれませんが(ただし、任期付き任用などでは明らかに裁量労働導入がねらわています)、民間ではまさにそのような段階にきていることは事実であり、提案のような方向をさらに押し進めていけば、かならずそのような方向にすすむことははっきりしています。


3に、特昇と勤勉手当、そして勤務形態の弾力化措置と組あわせた提起に表れているように、民間の「新日本的経営」の再構築と同様、雇用の弾力化・流動化と連動した総額人件費管理の強化と人件費抑制をねらっていることです。

(解説)人事院が提案の背景説明で述べている、「従来の年功要素から能力・実績を重視する方向へ」の民間賃金システムの変化は何を目的としているのでしょうか。それは、日経連の『新時代の「日本的経営」−挑戦すべき方向とその具体策』に率直かつ典型的に表明されているとおり、総額人件費管理による人件費削減(「賃金はもちろん、賞与、退職金、法定内外の福利費等」をパッケ−ジにした人件費管理の徹底、雇用の流動化や外部委託活用によって正規雇用を極力へらして人件費の節減をはかるなど)、従来の年功賃金廃止(能力・業績主義賃金への転換あるいは徹底化によって、一定クラス(資格)以上は賃金体系における年功的要素を完全になくしてしまう)−などを狙いとするものです。


 人事院の提案では「国もこれらの動きと無縁ではありえない」「公務の年功的人事運用に対して、国民は厳しい眼で見守っている」という以上、そのような方向を公務でも追求すると宣言したのと同じことになります。


4に、労働組合や当局の意見を聞いて検討するとしていますが、実際はその頭越しに、公務員制度の原則をないがしろにし、これまでの労使の雇用慣行や職場秩序を否定してまでも、職場のチームワークを破壊する内容のハードで対決的な施策を強引に導入しようとしていることです。

(解説)公務員賃金は「終身雇用」ないし長期雇用を前提とする人事管理の現実を反映した性格が強いことはいうまでもありません。現代の複雑・高度化した恒常的な公務サ−ビスは専門的訓練を経た終身の公務員によって担われるという近代公務員制度の大前提と、採用、配置、昇任、転任、退職などのメリットシステムによる厳格な運用、労働条件法定主義と予算内の定数管理などからいって、民間の雇用・人事管理がなじみにくいという一般的事情があることは、まず指摘しておく必要があります。もちろん、任用の弾力化がまったく不可能ではないにしても、新たな勤務形態を考える場合でも、給与、任用、その他の労働条件や定員管理上の扱いなどをどうすべきか、公務員制度全体の整合性が慎重に考慮して検討されなければなりません。研究交流促進法による現行の研究職の任期付き任用や臨時的任用(国公法59条)などの期限付きの常勤任用では制度的にきつい縛りをかしているのもそのためです。
 次に、公務員による公務サ−ビス提供が、いわゆる短期的な業績評価になじみにくいことも、特に指摘しておく必要性があります。公務員は、官僚組織としての階層・役職構造(本省から出先機関までの指揮命令系統、事務次官から一般職員にいたる職制系列)のもとでの各部署への異動や配転を通じて行政経験を積み、能力開発に努めながら、次第に上位の官職へ昇進していきます。それに応じた年功的賃金体系と退職金など長期雇用を前提にした安定的な処遇が保障されることで、職員は生涯にわたって職務に専念できるのです。したがって、職員の「業績評価」も長期にわたるものとなり、一定年齢までの年次別昇格管理などを伴いながら、結果は長い間に昇進などの差となって現れているのが実態です。


 また、営利を目的とする民間企業と異なる公務労働の性格もあります。また、実際それは、チ−ムワ−クで業務を遂行すること(業務の分担が弾力的で、仲間同士互いに協力し支え合う関係が自然とできていること、個人の成果よりもチ−ムや係といった集団としての成果を重視してきたこと、いわゆる「大部屋」での執務の実態から協調的な人間関係が尊重される)、成果が指標化しにくいこと、短期的な評価以上に長期にわたる評価が大切であること、なにより公平で透明度の高い信頼できる評価制度が確立されていないことなどから、職員間に差を設ける短期的な評価制度の運用を困難にしてきました。そうした事情を無視した今回の提案は、一般職員のモラ−ルアップや公務能率の向上に結びつかないことは明らかです。


5に、人事院は国民的に問題となっている「天下り規制」や情実によらない公平な任用システムの確立など、本来の民主的公務員制度改革の方向で努力すべき自らの責任を回避し、「成績主義」に名をかりた年功賃金手直しと、業績・成績給導入・拡大で「官僚批判」などをかわそうと姑息なやり方をとっていることです。

(解説) 公務員の採用、配置、昇進、退職といった任用のあり方の検討は人事行政上の最重要課題といえますし、天下り問題をはじめマスコミ等での公務員問題の報道もこれらをめぐってのものが多いことは、その重要性を示すものです。


 採用は、公開競争試験によりメリツトシステムが貫かれているかのようにみえますが、国家公務員の場合、本来資格試験ではない採用試験の中に、幹部候補職員は1種採用試験、一般職員はU種(大卒程度)、V種(高卒程度)という区別が行われ、本来メリツトシステムによるべきその後の昇進を初めから規定する事態になっています。こうした事態を是正することこそが必要です。そのことに手もつけず、本来任用の用語である「メリツトシステム」を勝手に「成績主義」と給与の用語と読み替えて民間の業績・成果の反映制度と同義に使用して、制度改悪を行うことは、専門的人事行政機関としてあるまじき態度ともいえます。人事院のいう成績主義に決してまどわされてはなりません。


●「成績主義」を口実にこれだけ制度改悪●
実際、人事院は成績主義や職務給強化を口実にして、これまでさまざまな制度改悪を重ねてきました。まず俸給を中心とした見直しでは、歴史的には、俸給表を中心とする制度は戦後の「通し号俸制」で給与決定にあたっての当局の裁量の余地を極力排した平等主義的な俸給構造から、次第に職種・職務間で格差が拡大する方向に推移してきています。その主なものをあげると、昭和32年の8等級制移行、35年上級甲新設(戦前の高等文官試験の復活につながる)と通し号俸の廃止(職務級への本格移行)、38年特号俸創設と39年指定職俸給表の創設、46年のボ−ナスの管理職加算制度新設、48年同制度の拡大、60年11級制移行による職務の格付けの再編・細分化、T種(旧上級甲)試験採用者の初任給格付けの変更(2級から3級へ。T種の特権化の追認)、平成2年のボーナスの新たな役職加算制度新設、同3年の本省庁課長補佐職員への特別調整額支給と4級以上1号上位昇格制度新設−−など、この間きわめて目まぐるしく見直が行 われてきたことがわかります。
とくに、行(一)4級以上への昇格はそれまでより1号上位の号俸に格付けされるという新昇格制度で、昇格メリットが拡大したことは大きな制度改変というべきです。これは一ロでいえば、公務員の生涯でより多く昇格するものほど有利な制度で、年収や生涯賃金で大な差がつくことになります。


6に、「若者の意識」、「国民の公務をみる眼」などを口実にして、制度改悪を合理化、する−方、中長期的な観点に立ったト−タルな処遇改善についての責任はまったく回避していることです。

(解説)人事院は、俸給構造を「早期立ち上がり」で高齢層抑制型に見直すために、俸給表配分の見直しを2年連続で続けています。若者の意識変化が一定程度あることは事実でありそれに応える必要性があるとしても、それは過去の人事政策の経過との関係で、世代間の公平を考慮しながら進めるべきです。たとえば、現在の高齢者はけっして早期立ち上がりの昇給カ−ブを経てきてはいません。若いときは今以上に劣悪な水準でがまんしてきて、今また早期立ち上がりが必要ということで、賃上げを抑制される。これでは、退職金や年金を含めた生涯賃金で一番損をするのが高齢者ということになりかねません。


 こうした配分上の対立を解消し、職員全体の処遇改善をはかるためには、現実的には国公労連が長年主張しているような官民比較方法の改善などによって、賃金全体の引き上げをはかるしかありません。肝心のそういう点の改善については、人事院は年々消極的になっているのです。


7に、合理的で納得性のある評価制度の確立なしに、管理職の恣意的評価による業績主義的な配分強化は、運用に適正を欠き、職場に混乱をもたらすことが必至だということです。

(解説) 公務の場合、第4でもふれたように人事管理や人事慣行、職務執行体制などからみて、民間企業並みのノルマ達成率などの目標管理にもとづく業績評価などが不可能なことはいうまでもありません。現行の勤務評定についてみても、相対評価であり、主観的判断が入りやすい、職員の性格判断などの業務とかかわりのないものの評価が含まれています。しかも、本来業績評価は、個人のパフォーマンスを高めて、公務能率の向上に資することにあり、短期的な賃金への配分だけを性急に追求するものではありません。

諸外国の例でも業績評価と業績給導入に成功したばかりではないことを指摘しておく必要があります(コラム参照)。一応の成功例といわれるオーストラリアでも、長年の検討のうえに92年に上級管理職(SES)と上級レベルの専門・技術職員(SO)に業績給を導入しましたが、これは評定者と職員との間で職務の目的、業績評価の指標、望まれている業績基準の3つについて合意を形成するところから始まり、業績評価に当たっても評定者と職員とで十分な話し合いがおこなわれ、職員の弁明が認められたり、業績評価に同意するかしないかを書面に残し、コメントを付すことができるといいます。しかも、過程や結果に不満があれば不服申し立ても可能です。また業績評価は業績給のためというより、将来の業績改善や研修等をつうじた能力開発に役立てられています。

木に竹を継いだような形の制度の導入ではだめで、それが民間部門でどの程度成功しており、現行公務員の人事・給与システムにどのような形で移植可能であるのかということを実証的に明らかにする必要がありますし、現行の方が、構成員のモチベーションをより望ましい形で引き出しうる可能性が高いという指摘もあるくらいです。また、ある分かりやすい評価基準を入れると、そのことのため(試験結果や論文数など)に努力を傾注する傾向がでて、本来の業務や目的がおろそかになることにも注意を要します。

もちろん、評価基準の設定のしやすさなどは、アウトトップとそれへの個人の関わりが明らかになりやすい職種であるかどうかが大きく左右します。したがって、当面は業績評価などの管理手法をとりやすいところから導入し、徐々に本来の行政的職務へ拡大適用していく手法がとられることが十分予測されます。その意味で最近の研究公務員や大学教員の任期付き任用導入の動きなどには注意を要します。

●効率どころか腐敗に結びつく業績給(米国連邦公務員の例)●
米国のメリット・ペイ・システム(業績給の一種)の現状は情実や縁故による腐敗の実例ともいうべきものに近くなっています。78年の連邦公務員制度改革の目玉であったのが、上級管理者SES(本省課長・局長クラス)の創設ですが、これは定期昇給はなしに、3段階の成績最上位者に年俸の20%以下の成績ボーナス=incentive awmdsが支給されます(受給対象者は当該行政機関のSESの0%以下など)。また、業績給マネ ジャ−(Merit Pay Manager GS 13等級から1等級にいる管理者・監督者で 本省課長補佐・室長クラスに相当)は、勤務成績に応じ、昇給、一時報奨金を受け、5段階の勤務評定で上位3段階の評価者に昇給と年俸の2〜10%の報奨金が支給されるというものです。
この制度の問題点としては、評価の困難性ということがあげられます。
主観的・印象的な評価に偏る危険性だけでなく、けっきよく評価のインフレーションを引き起こしてしまい、業績給マネジフレャ−の6割が5、4の評価 という事態も生じているといいます。また、報奨金目当てのサイドトレ−ドの可能性もあり、上位ランクほど政治任用が多く、政治的報奨の疑いもあり 、これでは、公務能率の向上という点でもその有効性はきわめて疑わしいといわざるをえま せん。
(全国人事委員会連合会『アメリカ合衆国及びカナダにおける公務員人事行政の現状と課題』(1993年)による)


第8に、人事院のこの提案が、今後の人事行政全般の改悪への先取りとなるだけでなく、公務部門の人事行政全体への影響が大きいということです。

(解説)現在、自治体行政の現場や郵政などの現業部門では、民間企業で進められてきた「リストラ」や人減らし合理化と同様の動きが本格的に展開され始めています。そこでは、安上がりで効率一辺倒の「都市経営論」などによる民間とのコスト比較による事業の「合理化」、定員管理の強化による職員数の総枠抑制、民間企業と類似の労務管理手法の導入などが進められています。その中で、人事・賃金制度も公務員制度の中に民間の手法を大胆に取り入れるなどの動きがめだっています。

人事院の今回の提案は、こうした公務部門全体に表れはじめている能力・業績主義の動きを公式に「認知」することにつながり、オーソライズして公共部門全体の人事政策の反動的再編とリストラの動きを加速させるものです。また、公務の労使の力関係を決定的に当局者側に有利に変える重要なきっかけをもたらすきわめて危険なものです。

●公務部門への能力・業績給導入例●
例えば、東京都では10年近くにわたって能力主義的な人事制度が導入されれていますが、その柱となっているのが人事考課(業績評価と自己申告)です 。人事考課は86年に幹部職員から一般職員に拡大され、今年(96年)から現業 職員にも拡大されました。これは、5段階の相対評価で職員の能力・業績評価を行い、その結果を昇任・昇格能力開発、人事異動など人事管理全般に反映させるというものです。また、このほど東京都がまとめた『都における能力と業績に応じた人事管理と人材育成』という報告では、都の人事管理は民間と比べてまだ問題が多いとして、「目標による管理」を人事考課と関連づける手法を導入することを提言しています。あわせて自己申告制度の有効活用策とし て、記入例の低い欄(「今後1年間に取り組んでみたいこと」など)の記入を促し、それをもとに「面接」指導を強めるとか、人事考課にあたっては従来より業績を重視することや勤勉手当への反映(従来は管理職のみ適用)についてもふれられています。これら民間の「目標管理制度」とまったく同じものです。
こうした制度は東京都だけでなく、名古屋市でも課長級を対象に「自己申告目標評価制度」による評価制度を導入していますし、次第に他の自治体にも広がりつつありす。
一方、郵政省では、民間の職能資格制度(能力主義)と類似の「新昇格制度」を97年から導入しようとしています。これは、「級」を従来の6級から8級に増やし、昇格機会をふやすー方で、昇格に限って職能制を組み入れ、人事考課によって勤務成績が良好なものから選抜するというものです。考課基準は「職務遂行能力」「業務への取り組み姿勢」「仕事の出来ばえ」からなり、それぞれ5段階の評価に全体考課を加えた総合点の多いものから昇格していくというもの。考課は絶対評価といわれますが、級別定数によるしばりがありますから、得点が高いからといってあがれるわけではありません。さらに、2年間の猶予を設けて99年からは民間の目標管理制度に似た「挑戦加点制度」も加わることになっています。

9に、研究公務員への任期付き任用(任期制)の導入は、単に任用の間題にとどまるものではなく、公務員制度全般への不安定雇用の拡大や一層の成績主義的な制度改悪の突破口につながる危険性を持っています。

(解説)任期制の導入に伴い、雇用期間が限られる不安定な雇用や、裁量労働制など勤務形態の弾力化、業績に応じた給与形態など、さまざまな制度の改悪が予想されます。これらはすべて、業績重視の雇用形態につながるものです。
 国家公務員の中における研究職という職種に対しては、すでに、人事院は96年の勧告における研究員調整手当で支給対象となる研究機関の考え方としていくつかの評価基準を示していますが、任期制の導入で想定される制度改悪は、これをさらに研究者個人への評価へ押し進めていくものといえます。研究職に関しては、一般に集団職務執行体制をとる行政職などと異なり、一人ひとりの業績が相対的に特定しやすい面を持つことから、ここに業績重視の雇用形態の導入を図ってきたものといえます。


 しかし、こうした動向は研究職にとどまるものと考えられません。実績を重視した人事・賃金管理をする上で、その評価基準の設定が研究職はしやすいとして、当面は研究職へ業績評価などの管理手法を導入しながら、徐々に本来の行政的職務へ拡大適用していくことは十分に考えられます。このことは、今回の特昇、勤勉手当制度の見直し改悪があわせて提案されてきたこと、また、研究職について特別の必要性が強調されていることからも明らかです。


 これは、1995年5月に日経連が発表した『新時代の「日本的経営」』に示される産業構造に柔軟に対応しうる雇用の流動化と職能・業績を重視した職能昇給による徹底した人件費管理と軌を一にしています。このなかでも研究開発部門は「高度専門能力活用型」として必ずしも長期雇用を前提としない雇用形態として位置づけられています。一方、一般職や技能職は雇用柔軟型として、同じく流動的な雇用形態と職務給などの賃金管理が想定されています。


 公務においても、現実に、「行政改革」が声高に叫ばれる中で、規制緩和や地方分権等で公務の職域が縮小していくことになれば、中心的な業務を担う公務員の終身雇用的な身分保障は崩壊しないまでも、公務部門全体の雇用の流動化とそれに伴う職務評価が強化されていくことが想定されます。


 こうしたことから研究職への任期制の導入は特定の職種の制度改悪ととらえるべきではなく、公務員制度全体の不安定雇用の拡大、成績主義強化の動きとしてとらえる必要があります。


4 勤評制度の概要とその問題点


1)勤評制度の概要


現行の公務員法体系のもとで公務の民主的かつ効率的な運営の確保をめざすことは、国民全体の利益に奉仕しようとする憲法の理念からすれば当然です。そして、公務も民主的運営を確保するには、公正な人事管理は不可欠といえます。しかし、こうした制度や方策も、当局の一方的で恣意的な運用が行われれば、労働組合活動への不当労働行為に該当するような不公正な人事管理となる危険性をはらんでいます。

現在の勤務評定制度は国公法と人事院規則をその根拠として「職員の執務については、その所轄庁の長は、定期的に勤務成績の評定を行い、その評定の結果に応じた措置を講じなければならない」と制度化され、「内閣総理大臣は、勤務成績の優秀な者に対する表彰に関する事項及び成績のいちじるしく不良な者に対する矯正方法に関する事項を立案し、これについて、適当な措置を論じなければならない」(国公法第72条)として、評定の事後措置についての基準を定めています。

そして、人事院規則で、勤務評定の意義を「人事の公正な基礎の一つとする」こととしていますが、その制度の要件は勤務実績の評定ばかりでなく、「職員の性格、能力及び適正」をも評定の対象としています。評価の結果の活用については「勤務成績の良好な職員については、これを優遇して職員の志気を高める。勤務成績の不良な職員については、執務上の指導、研修の実施及び職務の割当の変更などを行い、または配置換えその他の適切な措置を講ずる」と規定されています。

2)勤評制度の問題点


実際には、勤務評定は総理府令に基づき「所轄庁の長又はその指定した部内の上級の職員(以下これらを「実施権者」という。)が実施」しています。具体的には、管理者(実際には課・室長などの中間管理職)が職員の勤務実績を仕事の結果、仕事に対する態度、部下に対する統率の仕方などの「観察基準」にもとづく観点から、「優秀」・「良好」・「あまりよくない」などにランク付けして勤務評定記録書に記録されます。しかも、その評価は相対的なもので、どんなにみんなが頑張り優れた実績を挙げたとしても3割しか「優秀」者は付けられない仕組みとなっています。

こうしたことから、管理者は、大きな権限を与えられることになります。人を評価するためには、客観的な、納得性ある基準をつくることが不可欠ですが、そうした基準は明確ではありません。しかも、近代的な労使関係にあっては問題とすべきではない職員個人の性格、能力及び適性にまで評定の対象としていることから、評定者の恣意的な評価が入り込むことが避けられません。まして、評定される職員にその結果すら明らかにされず、不服申し立て制度もないなかでは、その運用の恣意性をチェックすらできません。

また、実際には「勤務成績の良好な職員」の厚遇措置として昇任や昇格、特昇、勤勉手当の高率支給などの優遇措置をとっているばかりか、「勤務成績の不良」を口実に労働組合に対する懲戒的冷遇措置をとっている場合もあります。さらに法律では「勤務実績がよくない場合」として「人事院規則の定めるところにより、その意に反して、これを降任し、又は免職することができる」とまで規定をしているのですから、その危険性は明らかです。このように現在の勤評制度は、給与制度に準用され、職員のあいだに不当な差別賃金や不当労働行為をもちこむ余地をつくりだしているばかりか、職員間の競争を無理矢理あおり立て、当局の職場支配に使われるおそれの極めて高い制度といえます。実際、これまでも労働組合の差別・分断に使われてきましたし、職員間の過度な競争をもたらして傷害事件すら引き起こしています。


5 任期付任用制度の問題点

研究職の任期付き任用(任期制)は、今年の勧告で導入について新たに触れるまでもなく、一部では導入されています。1986年に制定され、1992年に「改正」された研究交流促進法で、任命権者は「研究公務員の採用について任期を定めることができる」とされており、現在でもプロジェクトのもとに、5年を限度に主任研究員クラスを任期付で採用できます。実際、国立試験研究機関、大学、民間からの研究者が集まり研究を行う際に、任期付き任用や併任で行っている事例があります。また、これとは別に、若手研究者を一定期間研究に専念させ、創造性に富んだ研究者の養成・確保に資することを目的として、文部省や科学技術庁の外郭団体などから非常勤職員(定員外)として派遣される、ポスドク(おおむね大学院修了程度)制度もあります。これは、1年毎の任用で、最大3年まで更新できます。
こうした中で、すでに任期付き研究者の問題点が浮き彫りになっています。プロジェクトのリ−ダ−として任用される研究者については、任期終了後には元の大学や民間も含めた研究所等にもどることとなりますが、研究成果の継承や発展が危ぶまれています。また、プロジェクトの間の一定の期間だけ採用され、プロジェクト終了後には公務員を辞職することになるポスドクなどの場合は、特に雇用に対する不安が大きくなっています。こうしたことから、任期終了後の再任用や就職の関連を考えれば、任命権者に対する従属意識を生みだす元となっており、米国等でもいわゆる採用において師弟関係が優先されることなども含めて「ボス支配体制」につながる温床となっています。
また、研究との関係で考えると、任期付き任用では雇用に対する不安と再任用、就職を目当てとして、派手で短期的な見かけの成果が得られる研究に傾注しがちで、基礎研究等の長期で継続的な研究は不可能となってしまいます。また、国や官僚が研究方向を支配しようとするとき、不安定な身分の研究者のコントロ−ルが行い易くなり、国の政策に迎合した研究に制限される危険性もあります。
現在、任期制の導入が研究活動の活性化の切り札であるかのように言われていますが、研究活動を阻害している要因は、研究者自身のアンケ−トによっても引き続く定員削減でもたらされた人員不足と学会旅費、経常研究費の不足にあることが明らかとなっています。また、多くの国立研の研究者も、任期制の導入が研究活動の活性化につながるか疑問を投げかけています。(資料、国立研交流集会実行委員会アンケ−ト結果参照)
人事院は、「早期に成案を得て、別途、立法措置について意見の申出を行う」としていますが、拙速に結論を出すのではなく、現場研究者や労働組合の意見を十分踏まえて慎重に検討すべきです。



<資料編>


○人事院の10月24日の提案
○96年人事院報告(中・長期的な給与制度の検討、任期制導入)
○当局の主張と上申の論点
○「人事行政の理論と実務」の抜粋
○特昇制度、勤勉手当制度の仕組み
○ある省庁の勤務評定実施要領
○研究者アンケートの結果より
○新時代の「日本的経営」より

【人事院の10月24日の提案】
 10月24日の人事院説明の内容は、次のとおりです。(Fax速報No.665より)人事院は、今年の報告で「個人の能力と実績に応じ、それぞれ適正な配分をはかるため給与制度全般にわたって見直しを進めていく必要」があるとして、「よりいっそう成績主義を反映した給与システム...について検討を進める」旨言及した。

この背景としては、以下の点があげられる。

○新しい時代、変革の時代を迎え、勤労者の就業意識も変化し、実績をあげればそれに応じた処遇を受けたいという考え方が強くなってきている。これは官民を問わない。そのため、適正な給与配分が従来にもまして重要な意味を持つようになっている。
○ 民間においても従来の年功要素から能力・実績を重視する方向へ賃金システムが変化するという大きなトレンドあり、国もこれらの動きと無縁ではありえない。
○公務の年功的人事運用に対して、国民は厳しい眼で見守っている。

人事院としては、これまでも、能力・実績の給与への反映については、昇格の1号上位昇格制度の実施などいろいろ取り組んできたが、今回、特昇制度と勤勉手当制度について、よりいっそうの能力・実績の反映の推進の観点から、具体的な検討を行いたい。

(特昇の問題意識)

現行の特昇の効果は、基本的には画一的であり、職員の勤務成績・実績に応じたきめ細かな対応が必ずしも十分にはかれるものとはなっていない。従来の制度を踏まえながらも、実績を上げた人に今よりも一層実績に応じて報いることのできる途を開き、今よりもよりきめ細かな対応を可能とする制度を検討する必要がある。
また、研究活動の活性化の観点から、人事院では各方面で様々な施策を検討中であり、特昇についても、そうした観点からのより有効な活用方法の検討が必要だ。

(勤勉手当の問題意識)

現行の勤勉手当は、個々の職員の勤務成績に応じて支給されるべきもので、その成績率の運用についてもすでに基準が示されているが、支給実態は必ずしも制度及び運用の基準に沿ったものとなっていない状況が見受けられる。したがって、民間企業の状況等を考慮しつつ、適正な給与配分の観点から、勤務成績が優秀なものに対する勤勉手当の成績率のあり方について制度及び運用の両面から検討を進める必要がある。
研究職の勤勉手当については、国の重点施策である研究活動の活性化の観点から、競争環境下のインセンティブの付与が必要。同時に、成績に応じた適正な処遇を最優先で行う必要がある。

〈今後のスケジュール〉

今後、各省庁との意見交換、職員団体の意見聴取等を行いつつ、できるだけ早急に具体的な改善案をまとめ、示して、来年度から実施に移していきたい。

【96年人事院報告】


<中・長期的な給与制度の検討>


民間企業においては、グロ−バル化の進展等一層厳しくなりつつある経営環境、雇用の流動化、就業意識の変化、高齢化の進展などの状況の下で、別表第6に示すとおり、能力、実績又は職務を重視し、基本給部分における年功部分の縮小及び職能・成績部分の拡大、業務評価システムの改善等の人事・給与制度の大幅な見直しを行う事業所が多数みられる。

公務においても、厳しい環境の中での民間企業におけるこれらの取組をも踏まえ、複雑、専門化する職務内容及び多様化する在職パターンに対応し、世代間、種職間、地域間で、また個人の能力と実績に応じ、それぞれ適正な配分を図るため給与制度全般にわたって見直しを進めていく必要がある。本院としては、当面、早期立ち上がり型への昇給カ−ブの修正を進めることに加え、より一層成績主義を反映した給与システム、社会環境の変化に対応した職種別の給与及び地域・生活関連手当の在り方、高齢社会への対応を踏まえた昇給制度などについて検討を進めることにしている。

<研究公務員への任期制の導入>


科学技術の振興は、我が国の最重要課題の一つであり、本年7月には科学技術基本法に基づき研究開発推進の総合政策を定めた「科学技術基本計画」が策定されたところである。同計画では、重点施策の一つとして、柔軟で競争的な研究開発環境の実現を目指して、研究者の流動性を高め、研究活動の活性化を図るために研究者の任期制の導入などの整備を図ることとし、その具体化について、本院に早期の検討を求めている。

本院としては、各方面から意見を聴取しつつ、研究活動の活性化を図る観点から、人事管理諸施策の検討を重ねてきたところであるか、そのためには、各試験研究機関等は自らその目的、役割を踏まえた業務執行体制を確立して研究環境の整備を図った上で、適切な実績評価を実施する仕組みを整備し、評価に基づく処遇や研究における自由度の拡大、人材の流動化などを進める必要があると考える。本院としては、研究公務員に係る給与上の措置及び勤務時間の弾力化についてこの報告でも述べているところであるが、さらに、研究業務の特性を考慮し、以下のような新たな雇用の仕組みを導入することが必要であると考える。

ア 任用


次のニつの場合について、一定の任期を定めた任用を行うことかできる。

(ア)招聘型

高度の知識、技術等を必要とする研究業務の能率的推進を図るため、当該研究分野において実績等が評価されている優秀な研究者を任用する場合で必要なとき。

(イ)若手育成型

優秀な研究者として認知されていくために必要な創造的な研究能力等を涵養するため、将来においてその経験が評価されることが期待される研究業務に若手研究者を任用する場合で必要なとき。

イ 給与


長期継続雇用を前提としている現行の給与の枠組みにとらわれず、優秀な人材を公務に誘致するため、一定の任期においてそれぞれの研究者に期待される研究成果、研究活動等に応じた給与を支給することを基本として、それぞれのタイプの任期制にふさわしい給与水準となるよう、具体的な検討を行う。

ウ 勤務形態等


任期付任用の研究公務員については、創造的な研究開発環境の下で研究を行うことが有益であることから、裁量労働制を含めた自由度の高い新たな勤務形態の検討を行う。また、任期終了後の再就職の必要性等に配慮して、営利企業への就職制限の取扱いについても、その弾力化を検討する。本院としては、このような認識の下、更に検討を進め、早期に成案を得て、別途、立法措置について意見の申出を行うこととする。

なお、大学教官については、現在、大学審議会等において、任期制の導入についての検討が進められており、その検討結果等を踏まえて、適切に対処することとしたい。


【当局の主張と上申の論点】

しゅんとう職場から当局交渉を行い、特昇・勤勉手当制度の見直し改悪反対の上申を提起していますが、その際、考えられる当局の主張とそれに対する反論を考えてみました。

参考に活用してください。


Q成績主義は当然ではないか、

成績主義(メリット・システム)という言葉は、本来、縁故や個人的つながりで人事を行う前近代的な猟官主義(スポイルズ・システム)や情実人事に対立する意味の言葉で、人事に情実を介入させないため、公務員の勤務能力と実績を科学的・客観的に評価し、人事を運用しようとするものです。ところが、現実の人事管理は、その基準すら明確にしないまま、管理者の自由裁量にまかされ、採用試験の別や性別、組織の違いによる差別的運用が横行しているのが実態です。
人事院が、今回新たに見直し提案をしてきている特昇制度や勤勉手当制度についても、成績主義に名を借りていますが、その評価の仕組みは極めて恣意的な運用ができるものとなっています。
現行の特昇制度や勤勉手当制度は、総理府令に基づく勤務評定によって運用されていますが、その実態は、基準も明らかでなく、評定者が極めて恣意的に、部下の仕事の態度や結果について、「常にまじめに仕事に励んでいるか」「だんどりはよいか」などを判断し、A(優秀)、B(良好)、C(不良)の評定を下すことになっています。また、この場合Aはい<ら優秀な人が多くても3分の1以内に限定されています。さらには、勤務評定とは無縁の性格について、「積極的」「陰気」「わがまま」などと記入するようになっています。まさに、管理職の主観的な判断で性格まで決めてしまうものです。
今回の人事院の提案は、その恣意的な運用の幅をさらに拡大しようとするものであり、本来の成績主義とはまったく無縁のものといえます。

Q 民間企業でも業績給、能力給は流れだ

民間の賃金制度は多様であり、人事院の主張も一面的です。88年時点で既に、人事・労務管理の基本について43.6%の企業が能力主義と答えており、その傾向は今にはじまったことではありません。
確かに、最近はリストラのもとで、能力主義賃金体系の導入の動きはが強まっています。しかし、それはコスト削減を目的とするものであり、多くの人が賃下げになったり、年齢に応じた賃金加算は30代後半で頭打ち、業績給もどのように決まるのかさえわからず、会社のサジ加減で決められている実態があります。また、能力主義に基づく査定の結果、年間で90万円の賃金格差が持ち込まれたり、あるいは、降格、減給、自宅待機、さらには解雇の事例まであります。そもそも、こうした営利目的が第一の民間企業の賃金体系を、公正、中立さが求められる公務に導入しようとすること自体に無理があります。
また、民間企業でも、業績給を強化している企業でも、総務部門等の業績評価が困難な職場では、平均的な支給率を使っている実態もあり一律ではありません。それを無理に、格差をつけようとすれば、結局恣意的となり、逆に、多くの職員の仕事に対する意欲を削ぎ公務能率を妨げることになってしまいます。

Q 特昇制度、勤勉手当制度は適正な勤務評価に基づくものだ

既に、現行制度でも、少なくない格差があります。特昇や勤勉手当だけでなく、昇進・昇格によっても差別が持ち込まれており、例えば特権官僚(T種試験採用の行政官)は30代後半でほとんどが10級(本省課長相当)になっているのに対して、地方機関では4級(主任)に据え置かれている実態があります。その賃金格差は、年間で400万円にもなります。こうした格差が、適材適所という名目や管理者の恣意的な評価によってもたらされているのです。
そもそも、公務のように業務が多様で、かつ集団的に業務を行うところでは、その結果を客観的に評価することが困難です。会計業務と窓口業務とをどのような基準でランクづけすることができるのでしょうか。しかも、勤勉手当などで成績率を高めて特定の人に多額の一時金を支給するためには、財源は変わらないのですから平均以下の人をたくさんにしなければならない仕組みになっているのです(例えば、平均支給月数でが0.6月として、1.2月の人を2割つくるためには単純計算で0.3月の人を4割つくる必要があります)。人事院の狙いは、このように差別、分断を強化し、職員間の競争をあおって職場の管理を強めることにあります。
勤務評定が、適正に行われているとすれば、その勤務評定でC(不良)と評価された管理職に評価される職員の評価はどうなるのでしょうか。

Q研究活動の活性化のためには、任期制による人材の交流が不可欠だ

研究活動の活性化は、研究者自身の自覚と十分な研究環境の保障、研究者相互の適正な評価によってこそ可能です。
多くの国立研の研究者も、任期制の導入が研究活動の活性化につながるか疑問を投げかけています。実際、国研集会実行委が、この4月に行った国立試験研究機関の研究者に対するアンケート(8省庁の研究者約1700人を集約)では、任期制について、「国民が求める国立研の活動」を「促進する」「どちらかといえば促進する」と答えている人は、あわせて27.2%、逆に「阻害する」「どちらかといえば阻害する」は37.7%です。また、任期制が「研究者の創造性の発揮jを「促進する」「どちらかといえば促進する」というのは、あわせて20.7%に過ぎず、逆に「阻害する」「どちらかといえば阻害する」は46.9%に達しています。
こうした現場研究者の声や実態を無視する任期制の導入は認められません。現在、任期制の導入が研究活動の活性化の切り札であるかのように言われていますが、研究活動を阻害している要因は、後で述べるように、定員削減によってもたらされた人員不足と学会旅費、経常研究費の不足にあります。任期制の導入による「アメとムチ政策」ではなく、こうした点の解決こそが求められています。
また、任期制は、既に制度的には導入されており、新たに拡大する理由も明確ではありません。ポストドクターレベルの研究者は、国立試験研究機関に特別研究員制度として定員外(任期1年で、更新は3年まで。国立研に3-4百人、大学を含めて4千数百人)で導入されており、基本計画でも2000年までに全体で1万人にするとうたっています。また、招聘型の任期付任用も既に92年の研究交流促進法の改定で主任研究員等で限定的に実施できる仕組みになっています。それ以外にも様々な形で共同研究が行われています。任期制等による人材の交流も必要だと百歩譲っても、現行制度の活用で十分可能といえます。

Q 人事院の専門機関としての検針を待つ

人事院は、各省や労働組合の意見を聞いて、見解をまとめると説明しており、きちんとものを申すのが当局の責任です。現状でも、恣意的な運用が行われているのに、さらにそれが拡大することになれば、職場は混乱することになります。
特昇制度や勤勉手当制度は、本来、各省当局の責任事項であり、職場の実態を踏まえた第1線の管理者の意見こそ尊重すべきです。

【「人事行政の理論と実務」の抜粋】


●資料=人事院は年功的な人事菅理に対してどのような見方をしているのか


人事院人事行政研究会編著『人事行政の理論と実務』(日本行政研究所、95年6月)より


(解説)人事院は「公務の年功的人事運用に対して、国民は厳しい眼で見守っている」「人事院としては、・・・よりいっそうの能力・実績の反映の推進の観点から、具体的な検討を行いたい」(いずれも10月24日の特昇勤勉見直し提案)といいます。現行の人事管理を単純に「年功的」ということ自体問題ですが(すでに相当程度成績主義的に運営されている)、それでは具体的に現行の「年功的な人事」のどこを問題とし、将来的にどうように見直していこうと考えているのでしょうか。 その一つの手がかりとなるのが以下の資料で、人事院の正式の見解ではありませんが、政策スタッフがその問題意識を率直に書いている点で参考になります。


第14編 人事行政の今後の課題(p.881)


第1章 年功序列的な人事慣行の見直し

経済の低成長、人口の高齢化及び労働者の勤労意識の変化等の要因によって、民間企業においては、従来日本的慣行とされてきた終身雇用制、年功序列型賃金等について、現在、大きな変革期にあると言われている。このような変革の波は、公務部門にも及んでいる。ただし、公務においては、行政の安定性、中立性等の観点から、強い身分保障が法定されているため、終身雇用制については将来とも比較的変化は小さいものと予想される。一方、ある意味で年功序列的ともいえる人事慣行については、その変革を促す要因が様々な角度から生じてきているように思われる。(以下略)

第1節 公務における人事管理の特徴
1.終身雇用を前提とした人事慣行


国家公務員として採用された者は、恣意的に免職されることなく、職員としての身分は、定年の到達等一定の事由に該当しない限りみだりに奪われないという身分保障制度によって保障されている。民間においても大企業の基幹的な職員を中心に終身雇用的な人事慣行が広く存在するといわれているが、公務においては、このような身分保障が法定されていることによって、一層終身雇用的な色彩が強いものと思われる。

このような終身雇用を前提として、公務においては、人事院の実施する採用試験を通し、新規学卒者を中心にとして一般事務処理能力に着目した採用を行い、部内で必要な能力を備えた職員を育成することを基本としている。そのためもあって、定期的に異動させてジョブ・ローテーションを行うのが一般的となっている。定期的な異動については、異動先の官職に要求される知識、技術等を既に十分に備えている者を求めるというよりも、潜在能力、一般的適性、養成目的等諸々の要件を考慮しながら行い、職務を通した上司の指導・助言、職員の自己啓発等によって次第に職務遂行能力を身につけさせるという運用が定着している。

2. 集団執務執行体制


国家公務員法においては、官職を中心とした人事管理を行うために、職階制度を導入し、官職を職務の種類及び複雑と責任の度に応じ精緻に分類して、これを任用、給与等の人事行政諸制度の共通の基礎とすることを予定しているが,この職階制度は、我が国の人事管理の実態に適合しなかったことなどの理由により、いまだ実施されていない。現在の公務における職務遂行体制は、一人ひとりの職員ごとにその職貴を明示し・その職責を一通り果たすならば・組織全体の仕事が遂行し得るというところまで職務を細大もらさず組み立てるような職務配分方法はとられておらず、法令により定められた各省庁、局課等の所掌業務の範囲の中で、班、係等の小集団を単位として業務を配分し、集団内部では、個々の構成員の適性、能力等に応じて職務が行われているのが一般的である。このように各人の職務内容が、集団構成員の変動や個々の構成員の能力の変化に伴って随時変更される職務遂行体制は、構成員の有機的結合によって集団の熊率を最大限に発揮する上で、有効に機能してきている。

3 年功にウエイトが置かれた人事慣行


公務に採用された者は,その後の経験の積み重ねにより向上した職務遂行能力や、更に上位の仕事に対する潜在能力、適性などに応じて上位の官職に就いていくのが一般的であり、結果としては、組織内の構成員として経験の長い者が現実に処遇され、より高い官職を占めるという人事管理が基本となっている。また、各省庁における具体的な人事管理についてみれば、採用試験の種類、事務官と技官の別等により人事管理しているところが多く、養成等の観点から行うジョブ・ローテーションもそれぞれごとに行っている例が多い。一方、同一の採用試験等においては、採用年次を基本とした昇進管理が行われており、一定の役職段階まではほとんど差が生じていないケースが多く、年功にウェイトが置かれた人事慣行とみられている。

なお、給与面においても、年功が経験や熟練度の増加に基づく業績の増加として相当程度反映されていることは否めない。

第2節 年功にウェイトが置かれた人事慣行の背景等
1.年功にウエイトが置かれた人事慣行の背景


民間においても大企業の基幹的な職員を中心に、少なくともこれまでは、「日本的人事慣行」として、終身雇用が一般的となっており、その中で年功序列的な慣行が存在していたといわれているが、公務においても、次のような事由を背景に、年功にウェイトが置かれた人事慣行が行われてきたと思われる。

1 公務においては、上述のように終身雇用的な要素が強く、また、仕事を職場全員の協力で行う集団執務執行体制と呼ばれる仕事のやり方が一般的である。そのためもあって、仕事を進めるに当たり、職場のチームワークが重んじられており、その中で、個々の職員についてあえて差を設ける必要性が薄いとされてきた。
2 一般行政事務においては、民間会社における営業成績のように仕事の成果を数量的に表すことのできる職務はほとんどなく、また、上述のように個々の職員の職務と責任が必ずしも明確に分化されていない集団執務執行体制が一般的であることから、個々の職員の勤務成績を客視的に把握することが困難とされてきた。
3 職員の採用は、人事院が実施している筆記試験、人物試験等により構成された厳格な採用試験によって行われていることから、同種の採用試験を経た職員の能力は比較的均衡しているといわれてきた。
4 これら1-3の事由もあって,能力主義的運用の強化について,これまでは職員団体を中心に、職員の意識としても管理者による恣意的運用に結びつくおそれがあるなどとして忌避傾向があり、また、管理者も職員間に差をつけることに慎重になる傾向があった。


2.年功にウエイトが置かれた人事慣行のメリット・デメリット

現行の年功にウェイトが置かれた人事慣行には次のようなメリットとデメリットがあると考えられる。

(1)メリット

年功にウェイトが置かれた人事慣行は、年齢とともに子どもの教育費等、生計費が上昇することに併せて給与が上昇することから、職員にとって各人のライフステージに合致した給与を受け取ることができるというメリットがあり、それが長期雇用のインセンティブともなっている。また、集団執務執行体制等により職員各人の勤務成績の正確な把握が容易ではない一般行政事務の特性の中で、短期的な評価を気にせずに安んじて職務に専念できるというメリットもあり、それが職場の人間関係の安定にも寄与している。
人事当局にとっても、このような人事慣行は、安定的な労働力を確保することを可能とするほか、各省庁の行政運営に必要な人材は各省庁ごとに確保、育成することが基本となっている中で、年功、すなわち採用年次にウエートを置いた人事管理は、研修計画、ジョブ・ロ−テ−ション等によるきめ細かな人材育成計画をたてやすくしているという面もある。さらに、職場の人間関係が安定することにより、仕事の面でお互いに補い合うという集団執務執行体制の効能がより発揮できるというメリットもある。

(2)デメリット

年功にウェイトが置かれた人事慣行は、上述のように職場の人間関係が安定する半面、自らの業績がすぐに評価され、目に見える形で処遇に反映することが少ないため、若手の職員を中心に職務に対する意欲に問題が生ずる面があることは否めない。また、年功を過度に重視する場合は、職務遂行能力や職務に対する意欲が明らかに劣るような職員までも同期バランスの観点から処遇することになったり、激務に従事するなど、組織に貢献した職員がその貢献に見合った処遇を受けることができずに、職場全体のモラ−ルに悪影響を生じさせることがある。
人事当局にとっても、このような人事慣行は、職員の年齢構成が高齢化するに伴って上位ポストに不足が生じ、さらに、適材適所による機能的な組織展開が困難となり、人事管理全体を窮屈にさせるというデメリットがある。

第4節 年功序列的人事慣行を見直すに当たっての基本的な方向

今後、職員の能力をより重視する人事管理を志向するに当たって、その大きな流れとして、採用試験の種類や採用年次等を基本として職員をいくつかの集団でとらえた画一的な人事管理から個々の職員ごとのきめ細かな人事管理に移行する必要があると思われる。これまでの人事管理においては、採用試験の種類等によって、採用後の研修計画、ジョブ・ローテーション等の人材育成計画が異なることもあって、結果的に昇進スピードの差が生じており、これがいわゆるキャリア・ノンキャリア問題といわれている。この問題は、個々の職員ごとにその能力、適性に応じた人事管理をすることによってある程度解決するものであると思われる。
このように個々の職員ごとのきめ細かな人事管理を行うに当たって、どのように納得性のある適正な能力評価をするかという問題を避けては通れない。職員の能力を客観的に測定する方法の一つとして、筆記試験を中心とした昇任試験の導入が考えられるが、これまで昇任試験については、
1 官職に求められる職務遂行能力が多種多様、かつ、複雑高度であることから、統一的な試験を設定することは困難。
2 現に就いている業務の繁閑によって職員の試験の準備に関する公平性を確保することができない。

等の問題があり、難しいとされてきており、それは今後も変わらないように思われる。

したがって、職員の能力評価については、日々の職員の勤務をいかに評定するか、あるいは日々の勤務を通じて職員の能力をどのように把握するかということが重要なポイントになるものと思われる。

●資料=事務部門の業績評価はいかにむつかしいか

「座談会・転換期の民間賃金」(人事院月報 96年3月号)より


(解説)業績を反映した給与という以上、職員の業績の評価が客観的になされる必要があります。しかし、現実にはそれが困難で、民間大企業の人事担当者も苦労していることが、人事院月報などでも紹介されています。


司会 それでは、事務部門の人たち、つまり公務員のように営業成績で数字が現れないような人たちについての評価はどのようになさっているのですか。
小副川(東武百貨店) 営業成績に基づく賞与の業績考課は、事務部門では行っていません。事務部門において、営業部門の業績考課に相当するものは、課業達成度考課というものを導入しまして、目標管理に近いことを行っています。
今泉(日本電気) 直接業績がでない部門はかなり難しいですね。例えば全社スタッフ部門の部門別業績賞与は、全社の平均的なところを勘案しながら決めています。また、個人別業績賞与は、営業部門、設計部門とかに比べると少し個人間格差の幅が狭くなりますが、従来に比べるとメリハリはついています。
評価は、仕事の難易度と達成度で決まるわけですが、できるだけ定量化できるようにしていまず。例えば、私たち人事部門では、どういうしベルの人が採用できたのか、どういう人事異動が実現できたのかといったようなことです。上司からも、できるだけ定量化した目標を設定するようにとの指導があり、できるだけ数字化するようにしています。


【特昇制度と勤勉手当制度の仕組み】


1)特昇制度の仕組み


特昇とは、職員の勤務成績が特に良好である場合に特別に昇給させることとされ、これを分類するとおおむね次のとおりになります。

種  類要 件昇 給 時 期考課
勤務評定等に
よる場合
勤務評定の結果 普通昇給の時期1号捧
困難業務に精励、遠隔
異動等により公務貢献
が顕著であるとき
要件に該当した日以後1年以内
の普通昇給の時期又は人事院
の承認を得た時期
研修・表彰等
による場合
研後成績が特に良好 成績認定日又はその日以後の
直近の普通昇給の時期までの
半号捧
(6か月
発明考案等による表彰
・顕彰
表彰・顕彰を受けた日又はそ
の日以後の直近の普通昇給の
時期までの日
1号俸
特別の場合生命をとしての職務遂
行による危篤等
人事院の承認を得た日1号捧
以上


この特昇は、別の分け方として「枠内特昇」と「枠外特昇」の2つに別れます。「枠内」の方は、勤務成績が特に優秀で表彰された場合や、勤務評定の結果、能力・適性・性格が優秀である場合などに、定員の15%のわく内(範囲内)の職員を1号俸上位の号俸に昇給させる制度をいい、正式には「特昇定数の範囲内で行う特昇」と呼びます。このうち、勤務評定上位者に対する枠は現在10%で、公務特別貢献枠が5%となっています。

一方、「枠外」の方は、1 研修、表彰等によるもの 2殉職等特別な場合によるものとがあり、特昇定数の枠外で昇給させることができます。また、殉職等についてだけは、他の特昇と異なり、2号俸以上の号俸に昇給できます。なお、1988年(昭和63)には、勤務密度や拘束時間等の面から精神的、肉体的にも負担の大きい、令立案、国会対応、予算折衝などの困難業務に従事する各省庁内部部局の職員を対象に、一定の本省庁職員の3%の枠内で特昇を認めることとする、特別枠がその中に創設されました。

 特別昇給     枠内     勤評特昇(10%)     規則37条

                  公務貢献特昇(5%)     規則37条の2
          枠外     研修・表彰等         規則39条
                  殉職や本省の困難業務 規則42条
<枠内持昇>
▽ 勤務評定による特昇
次の場合に該当する職員については、現に受けている俸給月額の直近上位の俸給月額に昇給させることができる。

1勤務評定の結果上位の段階に決定され、かつ、執務に関連して見られた職員の性格、能力及び適性が優秀である場合
2勤務評定を実施しないこととされている職員等の勤務成績が前記@に相当する勤務成績であると証明された場合

▽ 公務特別貢献による特昇

前記@に該当する職員若しくはこれに準ずる職員、又はAに該当する職員が相当の期間にわたり特に繁忙な業務に精励した場合、極めて特殊の知識、経験等に基づきこれらを直接必要とする困難な業務に精励した場合、その他人事院の定める事由に該当した場合において、当該職員の公務に対する貢献が顕著であると認められるとき。「その他人事院の定める事由」は、次に掲げる事由とする。

(1)勤務成績が特に良好であると認められ、昇任(昇格を含む。)をしたこと。
(2)遠隔の地その他生活の著しく不便な地に所在する官署に異動し、相当の期間勤務することとなること。
(3)住居の移転を必要とする異動が頻繁に行われること等により相当の負担が生じていると認められること。
(4)公務員法第55 条第1項の規定による任命権者又は法律で別に定められた任命権者を異にする官職への異動が行われること。
(5)研究・共同研究等・設立援助による休職にされること又は当該休職にされた後、復職したこと。
(6)派遣法(国際機関等に派遣されるー般職の国家公務員の処遇等に関する法律)の規定により派遣されること又は派遣法の規定により派遣された後、職務に復帰したこと。
(7)人事交流等により特別職の国家公務員、給特法の適用を受ける職員、地方公務員及び公庫、公団等の職員となること又は人事交流等により当該職員となった後、再び人事交流等により給与法の適用を受ける職員となったこと。
(8)職務に直接関連する高度の免許等の資格を取得したこと等により職務遂行能力の顕著な向上があると認められること。
(9)規則9-8第39条第2号に掲げる表彰又は顕彰に準ずる表彰又は顕彰を受けたこと。
(10)公務上の災害若しくはこれに準ずる事由により危篤となり、又はこれらの事由に起因して退職すること。
(11)長期間にわたり職務に構励し、当該期間を通して勤務成績が特に良好であると認められること。


<枠外特昇>


▽ 研修、表彰等による特昇
勤務成績が特に良好な職員が次に掲げる場合に該当するときは、特昇定数の枠外で昇給させることができる。


(1)研修に参加し、その成績が特に良好な場合(人事院承認)
(2)発明考案等により表彰又は顕彰を受けた場合(人事院承認)
(3)20年以上勤続して退職する場合
(4)整理退職により退職する場合


▽ 特別な場合の特別昇給

勤務成績が特に良好な職員が生命をとして職務を遂行し、そのために危篤となった場合等(本省庁で困難業務に従事する場合を含む)で特に必要があると認められ、人事院の承認を得たときは、特昇定数の枠外で昇給させることができる。

2)勤勉手当制度の仕組み

現在、公務の特別給には期末手当と勤勉手当の2種類があり、民間のー時金との均衡上支給されるているものです。戦後のインフレ期に盆、暮等の生活費の増嵩を考慮して支給されていた生活補給金等の流れを引く期末手当に対し、勤勉手当は民間における考課査定分に対応するものとされ、「各省庁の長またはその委任を受けたものが人事院の定める基準に従って定める割合を乗じて得た額」を各職員に支給することになっています。

勤勉手当の支給額等については、基準日(6月1日と12月1日。退職者、死亡者は、

退職又は死亡の日)現在に受けるべき基礎給与(俸給+調整手当及び筑波移転手当+役職別加算額+管理職加算額)の月額×(@期間率)×(A成績率)となっており、それぞれの率の内容は別表の通りです。

成績率は、0.4〜0.9の範囲内で各庁の長が定めることとされていますが、一方で、支給総額の限度について、前記の支給基礎給与に扶養手当の月額を加えた額に60/100を乗じた額の範囲内とされています。したがって、一人当たりの平均では0.6月をいくらか上回る額となり、その分成績率に加算できる仕組みとなっています。

なお、1章で述べたように1982年(昭和57)3月に人事院は、この運用について「少なくとも全体で3段階となるよう設定し、最上位と最下位との差は少なくとも10%あげる」という内容で、勤務成績をいっそう反映させる趣旨の運用通達を出しています。

●特昇制度、勤勉手当制度の変遷●

特昇制度は、昭和28年から実施され(特昇枠は定員の5%)、35年に特昇枠が10%に、37年にはその効果を半号俸から1号俸に、43年には特昇枠を16に拡大。57年には勤務評定枠を12%に縮小したうえ「公務特別貢献枠」3を創設し、61年には公務特別貢献枠を5%に拡大して勤務評定枠を10%に縮小、63年には本省庁の3%特別枠創設(法令立案、国会対応、予算折衝などに従事する困難業務従事者を対象)−−とこれも制度見直しが繰り返されています。
一時金の主な制度改正のうちで重要なものは、71年、73年に管理職加算(9-11級在職者対象には10、15、25%の加算を行う)、91年に役職別傾斜支給(4級以上の役職者についてに応じで5-20%割り増しを行う。下位の役職者まで加算の対象とした点が前者と異なる)があげられます。これによって、役職の違いが基本賃金の差以上に年収に反映する役職優遇の構造 (「職務給」強化)が定着したとみることができます。
成績主義の建前のもとに、これだけの制度や運用改悪を重ねてきながら、なにをいまさらというのが、私たちの率直な感じではないでしょうか